※ 無断転載禁止 ! ※当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください私の心の中のお話です。
ご了承ください。

「気分はどうだ? ん?」
目が覚めて、自分が病院のベッドの上だということを認識するのにそんなに時間はかからなかった。
鼻につく匂いは、幼いころから知っている、僕の身体にしみ込んだ消毒液の匂い。
泣き出しそうな僕を、不安げな顔で覗き込んで、
優しく頬を撫でてくれる人・・・
その人の姿が視界に入った途端、僕の心は安堵した。
・・・・・「ユンホさん」
「チャンミナ、もう大丈夫だから、、、心配ないよ」
こんな風に、体調を崩して倒れこむことは慣れていたけれど、
悲しそうな顔をしている彼の姿を見ていると、心配をかけたことを酷く後悔した。
・・・・・「ごめんなさい、心配かけてしまって、、、」
まだ、喉の奥に何かが詰まっているような感覚。
はっきり言葉を口にできない僕に、ユンホさんは何度も頷きながら優しく微笑んでくれた。
「分かってる。ご両親には一応連絡は入れたから」
いいのに・・・
また、余計な心配をかけてしまう。
「お母さまが、こちらに向かってくれるそうだ」
母さんの表情が頭の中に浮かんで、、、
いい大人の僕は、未だ両親に心配ばかりかけている。
・・・・・「ユンホさ、あの、、、」言葉が詰まる。
まだ少し、息が苦しい。
「話はもう少しゆっくり落ち着いてからにしよう。ここに居てやるから、ゆっくりお休み」
布団の上の僕の手を取って、ぎゅっと握ってくれた。
その力が、なんだかとても僕を安心させて・・・
途端、意識が深いところに沈んでゆく。
ゆっくりと目を閉じようとしたその時、ユンホさんの後ろから、遠慮がちに僕を覗き込む誰かの姿が見えた。
どこかで見たことがある、
とても美しい人・・・
--- ユノ、、、もう大丈夫なの? ---
ユンホさんに親し気に話しかけるその人が、誰だかとても気になったけど、
瞼が重くて、、、
僕はそのまま眠りに落ちて行った。
薬のせいもあってか、僕が次に目覚めたのは、丸一日たった夕暮れ時だった。
カーテンの向こうが、薄いオレンジ色に染まっているのがわかる。
僕に背中を向けて、その景色を眺めている人・・・
・・・・・「母さん、、、」
母の背中がとても小さく見えて、僕はまた、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
僕の呼びかけに振り向いた母は、穏やかに微笑み、僕の名を呼んだ。
--- チャンミン、目が覚めた? ---
・・・・・「うん、ごめんね。遠いのに大変だっただろ?」
--- 電話貰った時は驚いたけど、彼、チョン、、、チョン・ユンホさん。
彼がね、いろいろと気を使ってくださって、、、---
・・・・・「ユンホさんが?」
ベッドの脇にある小さなイスに腰かけて、母は話を続けた。
--- 心配で、先生にいろいろチャンミンの状態を聞いてくださってね。それを細かく伝えてくださったの。
だから、心配ないって思ったんだけど、彼が、、、、---
〝きっと、お母さまが傍にいてくださったほうが、チャンミンが安心すると思うんです〟 --- そうおっしゃってね、、、久しぶりにチャンミンの顔を見たかったし、
お父さんは出張だし、、、それで出てきたのよ---
そんなことを、少し目じりを下げて寂し気に呟く母が、無性に恋しくなった。
・・・・・「心配かけて、ごめんね」
--- お昼頃、ユンホさんが持ってきてくださったの---
真っ赤なリンゴを手に取って、母が器用に剥き始める。
・・・・・「美味しそうだね」
--- 眠ってる貴方をとても心配そうに見てたから、大丈夫ですよってそう言ったの---
・・・・・「・・・・・」
--- 何度も何度も私に頭を下げてね---
・・・・・「えっ? どうして?」
--- 自分が気がついてあげられなかった、、、って、とても気にしてらしてね---
そんな、、、
ユンホさんのせいじゃないのに、、、
--- チャンミンの事、少しお話しておいたわ。もしかしたら、これから先もこんなことがあるかもしれないけど、
それは、気を付けていてもあり得ることだって---
・・・・・「僕が、ユンホさんにきちんと話をしていなかったから、、、」
ベッドで目が覚めた時のユンホさんの顔が頭に浮かんで、、、思わず瞳を伏せる。
そんな僕を見て、母が小さく呟いた。
--- うちに戻ってきてもいいのよ。仕事なら、別にソウルじゃなくても、、、---
母の正直な気持ちなんだと、そう思った。
リンゴを手にしたまま、ナイフを動かす手を止めてしまった母の手は、少し震えていた。
震える母の手に、僕はそっと自分の手を重ねた。
・・・・・「母さん、大丈夫だよ。これからはもっと自分で気を付けるようにする。
病院にもきちんと定期的に通うし、、、時々母さんにも会いに戻るよ」
そんなことしか言えない自分が苦しかった。
次の日、僕は容態が安定したことで、帰宅の許可が下りた。
--- 大丈夫なの?母さん、暫くお父さんのマンションにいてもいいのよ ---
僕はまだ、身体に少しの熱と怠さを感じていたけれど、
とにかく早くマンションに・・・
ユンホさんのところに帰りたかった。
・・・・・「大丈夫だよ。母さんもいろいろ忙しいだろ? また、連絡するから、、、」
タクシーに二人で乗り込み、母をソウルの駅まで送った後、
僕は運転手にマンションの場所を告げた。
走り出したタクシーの窓の外・・・
通りの街路樹は、もうすでに色付き始めて、
夏の終わりが少しずつ近づいていることを感じさせた。
ふっと、手の中にあるそれに視線を向ける。
母が、タクシーから降り際に僕に手渡したもの。
--- そうだ、、、これ、、、---
差し出されたそれは、見覚えのある、
僕が勤める会社のロゴが入った名刺だった。
--- 母さん、すれ違いでお会いできなくて、お礼が言えなかったの。
倒れていた貴方を見つけて、救急車を呼んでくださった方よ。
暫く貴方のそばにいてくれてたみたい。十分にお礼を伝えておくのよ---
〝営業部 営業課 イ・テミン〟
イ・テミン・・・
彼の後ろで、じっと僕を見つめていた人、、、
あの人だ。
エレベーターの中で見た、あの美しい人・・・
彼の視線を思い出しながら、
僕は窓の外に広がる空を眺めていた・・・
19へつづく
読者の皆さま、こんにちは。
今日は午後からお友だちと電話で長話の予定(笑)
私の数少ない〝書き手さん〟のお友達です♪
お久しぶりなので、楽しみ(^^♪フフ
それでは、午後も素敵なひと時を♪
いつもご訪問ありがとうございます。
こころ。
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