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私の心の中のお話です。
ご了承ください。



真夜中の観覧車。-scene2-.






--- まっ、待って、、、待って、チャンミンくん!! ---


人の波に逆らうように、イェリンの腕を掴んで速足で歩いた。
気が付けば、賑わう表の参道からずいぶんと離れた境内の裏側の広場に来ていた。

イェリンに名前を呼ばれて、我に返る。

振り向くと、戸惑う彼女の顏が、ようやく僕の視界に入った。


・・・・・「ご、ごめん、、、」


慌てて手を離す。

さっきまで近くで聞いていた祭りの太鼓の音が、今は遠くに聞こえる。
辺りはあまり人気がなくて、ポツポツと空けた感覚で立っている灯りと、
いくつかの提灯の灯りが、ぼんやりと灯っているだけだ。


--- 突然、どうしたの? ---


イェリンの声が、強張っているように感じる。

きちんと顔を見てお別れを言えなかったこと、
自分の気持ちを、直接伝えて謝れなかったことを、僕はずっと心の隅で申し訳なかったと思ってた。


・・・・・「うん。今更なんだけど、ちゃんと顔を見て謝れなかったから、それで、、、」


そう言うと、イェリンはふっと笑みを浮かべて・・・


---ほんと、今更だよ、チャンミンくん・・・---

・・・・・「うん、、、けど、ずっと悪かったって、そう思ってたんだ。きちんと会って伝えるべきだった。ゴメン」

--- そんなの、、、もういいよ---


自分勝手だけど、その時心の隅に残っていたモヤモヤが、すっと消えていく気がした。
それは、イェリンが、以前と変わらない笑顔を、僕に向けてくれたから・・・


--- 少し、歩く? ---

・・・・・「そうだね」


どちらからともなく、僕達は賑やかな表の参道とは逆に向かって歩き出した。
カラン、カランと、イェリンの足元の下駄が音を立てる。

夢中で歩いたから、気が付かなかったけれど、
イェリンは落ち着いた藍色に白の蝶が描かれた浴衣を纏い、足元には赤い鼻緒の下駄を履いている。
彼女がとても、大人に見えた。


--- チャンミンくん、さっきからじろじろ見てる---

・・・・・「あっ、、、ゴメン、、、浴衣、似合ってるなって思って、、、」

--- そんなことないよ。ミファ先輩に比べたら私なんて・・・---

・・・・・「そんなことないよ。ほんとに、とても大人に見える。素敵だよ」


感じたまま、そう言葉にした。

隣に並んで歩くイェリンは、少し恥ずかしそうに俯いた。


--- そんな言葉は、付き合ってる時に聞きたかったな---

・・・・・「ごめん、、、」

--- ふふ、、、冗談だよ。チャンミンくん、ごめんばっかりだね---


少しお道化たように、小さく舌を出して笑う。
彼女の明るくて優しいところに、僕はずっと甘えていたんだと思う。


気が付けば、僕達は神社を出て、
近くを流れる川に掛る橋の上にいた。

立ち止まり、橋の欄干に両手をついて、身体を乗りだすイェリン。
大人げな浴衣を来て、歩幅を狭めて歩いても、少しお転婆な所は変わってない。


・・・・・「危ないよ、イェリン」

-- 大丈夫だよ、見て、ほら、、、誰か河原で花火してるのかな? ---


イェリンの視線の先を追う。
目に止まったのは、色とりどりの火花がいくつも咲き乱れている美しい光景。


--- 花火、綺麗だね---

・・・・・「うん。とても、、、」


暫く二人で、その光景を眺めていた。
暫くすると、光は消え、また闇が戻る。


--- チャンミンくん、、、---


それを待っていたかのように、イェリンが口を開く。


・・・・・「ん?」

「チャンミンくん、チョン先輩が好きなんでしょ?」


えっ?

心臓が止まるかと思った。
どうして、、、どうしてイェリンが?

言葉が出ない。

けれど、イェリンは僕の返事を待っているのか、
欄干に手を突いて、少し先に明るく灯る、神社の方を見たままで、、、


・・・・・「な、何言ってるの?」


精一杯の返事、、、
それ以外、何を言っていいのか頭が混乱して、黙るしか出来ない。


--- 知ってるよ。初めから、、、遊園地で初めて会った時から、、、---

・・・・・「・・・・・」


そんな僕を尻目に、イェリンはくるりと身を翻し、僕を見て笑う。


--- 心配しないで。誰にも言わないし。言うつもりなんてない---

・・・・・「イェリン、、、それは、、、ちが、、、」

--- けど、、、---


その時、イェリンの声が変わったのを感じた。
僕の目の前に立つイェリン。

顏を上げ、視線を合わせる。


イェリンは笑ってた。
けど、心が笑ってない。
彼女は、真剣だ。


--- けど、ミファ先輩を悲しませないで?お願い ---

・・・・・「イェ、、、リン、、、」

--- ミファ先輩、本当にチョン先輩の事が好きなの。だから、お願い、、、---


〝ミファ先輩から、チョン先輩を取らないで、、、〟


その言葉が、僕の心にグサリと突き刺さった。
取るも何も、ヒョンが僕に振り向くなんてこと、あるわけないのに、、、

そう、イェリンに言おうとしたけれど、
イェリンの言いたいことは、そうじゃないんだと、その表情からそう感じた。


--- ゴメン。偉そうなこと、、、でも、このままだとミファ先輩が悲しむことになりそうで、、、---

・・・・・「そんなこと、、、心配しなくていいよ」

--- チャンミンくん、、、---


イェリンに気づかれるほど、僕の気持ちがヒョンに向かっていたということ。
自分勝手で、周りが見えてなかったということ。

イェリンはそれを、僕に伝えたかったんだ。

僕のこの気持ちは、誰にも悟られちゃいけない想い。
それを忘れかけていた。
ヒョンが優しいことを理由に・・・

ダメだな、、、自分の気持もコントロールできずにいたなんて。

このままだと、ヒョンに迷惑が掛かる。

それだけは嫌だ。


・・・・・「イェリン、心配しなくていいよ。大丈夫」


それしか言えなかった。
けれど、僕の気持はイェリンに通じたとそう思う。


--- 今日、チャンミンくん会えてよかった---

・・・・・「僕も、イェリンに会えてよかった」

--- じゃあ、私、帰るね---

・・・・・「遅いし、送るよ」

--- ううん、ミファ先輩と、はぐれた時の待ち合わせ場所、決めてるから。ありがとっ---



明るくて、気さくでいつも笑ってた。
そんな彼女が、僕はとても好きだった。

ありがとう、そして、ごめん。


大きく手を振って戻っていくイェリンの姿が見えなくなるまで、
僕はずっと手を振り続けた。





・・・・・「ヒョン、、、」

随分と時間が過ぎて、僕はイェリンと別れた後、神社には戻らず、
そのまま自転車を止めてある場所に向かった。

ヒョンと顔を合わしづらかったから。
なのに、、、


「お前、遅い」

・・・・・「待っててくれたの? ミファさんは?」

「ミファはイェリンと帰るって」

・・・・・「送っていかなくてよかったの?」

「いいんだよ。ほらっ、これ」


差し出されたのは、真っ赤で大きなりんご飴。


・・・・・「ヒョン、、、」

「イェリンとちゃんと話せたのか?」

・・・・・「うん」

「良かったな」

・・・・・「うん」

「帰ろっか」


ヒョンは、自転車のカギを外し、ハンドルを握る。
そして、方向転換して家の方向に歩いてゆく。

その後を急いで追いかけた。



・・・・・「ヒョン、ごめんね」

「ったく、お前のせいでかき氷食えなかっただろ?」

・・・・・「ミファさんと食べなかったの?」

「お前と食べる約束したからな、、、」


こういうところが、ヒョンなんだ。


・・・・・「今度、奢るよ」

「当たり前だ」


ヒョンの横顔が、笑ってる。


「あっ、そうそう、こいつ、、、お前にやる。大切に育てろ」


再び差し出されたヒョンの手には、
あの、黒い金魚・・・


・・・・・「でも、、、いいの?」

「ああ、お前の為に必死で掬ったんだから、長生きさせろよ」

・・・・・「うん。ありがとう」


ヒョン、、、
ごめんね。

僕は、ヒョンが好きなんだ。
でも、この想いはヒョンに通じてはいけない想い。

だから、これから僕はヒョンを嫌いになるよ。

ヒョンには、、、
大好きなヒョンには、、、

大好きな人と、幸せになってほしいから・・・・・




ヒョンと僕の、長いようで短かった夏の時間は、
こんな風に終わりを告げた・・・・・








32へつづく

読者の皆さま、おはようございます。
「真夜中の観覧車。」読んでくださっている方は少数だと思いますが、
初めて読んでくださっている方も、何度か読んでくださったことがある方も、
楽しんでいてもらえたら嬉しいです。

本日の31話で、-scene2- が終わりましたので、
本年度中の「真夜中の観覧車。」の更新は、これで終わりたいと思います。

新年からは、-scene3- に入ります。
引き続き、お付き合いよろしくお願いいたします。

今年最後の〝観覧車〟の更新ですので、
久し振りにコメント欄を開けます。
宜しかったら感想等、書きこんでください。
お待ちしています。






こころ。


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私の心の中のお話です。
ご了承ください。



真夜中の観覧車。-scene2-.





・・・・・「ヒョン、お待たせっ」

「1分遅刻」


家に戻って、急いで着替えた。
今年買ったばかりのお気に入りのストライプのシャツに、短めのデニム。

履いたスニーカーは、実はヒョンと色違いのお揃い。


「あれっ?」


ヒョンが僕の足元を見て・・・


・・・・・「どうしたの?」

「ほら、、、そのスニーカー。俺と同じだ」


驚いた顏で、僕と色違いのスニーカーを履いた脚を持ち上げ、ゆらゆらと揺らす。


知ってるよ。
だって、ヒョンが履いてるのを見て、僕も欲しくなって買ったんだもん。

けど、そんなことは絶対言わない。


・・・・・「あっ、ホントだ。色違いだ」

「さすが兄弟だな」

・・・・・「うん、兄弟だね」


なんだかおかしくて、僕達は二人してケラケラと笑った。


「よし、行こう」

・・・・・「うん」


自転車に乗り、走り出す。
僕はいつもヒョンの少し後ろを走る。

ヒョンの大きな背中が、好きだから。


夕日が眩しい。
夏の生暖かい風が、自転車で走る僕達を包む。

ヒョンのスピードに後れを取らないように、
僕は必死でペダルを漕いだ。




神社に着くころには、陽はすっかり落ちていて、
名残惜しく西の空に、オレンジ色の光がうっすらと広がっていた。


「行こう、チャンミン」


真っすぐに伸びる参道を、ヒョンと並んで歩く。
僕達はとりあえず神様に手を合わせる。
隣にはヒョン。

去年は、キュヒョン達と一緒だったっけ・・・

手を合わせて、僕は丁寧にお辞儀をした。
そして、毎年同じことを神様にお願いする。


〝いつまでも、ヒョンの隣に居られますように・・・・・〟


ちらりと隣のヒョンを覗き見る。


真剣な表情で、ヒョンは手を合わせ、祈っていた。
ヒョンは、どんなことを祈っているのかな?



〝ミファさんと仲良くいられますように・・・〟

〝希望の大学に合格できますように・・・〟



きっとそう、、、
そうだ、、、僕もお願いしておこう。


〝神様、どうかヒョンが、いつも幸せで笑って過ごせますように・・・〟


2つもお願いしたら、神様に叱られるだろうか・・・
それなら神様、1つだけしかお願いできないのなら、
僕のお願いはいいから、どうかヒョンを・・・
ヒョンを幸せにしてあげてください。


長い長いお願い・・・
手を合わせて、お辞儀をしたまま僕はそんな風に祈った。


「チャンミン、もういいか?」


言われて顔を上げると、ヒョンが僕を見て笑ってる。


・・・・・「うん」

「よし、じゃあ、俺はたこやきっ!」

・・・・・「んーじゃあ、僕は焼きそばとりんご飴!」


途端、お腹が空いてきて、
僕達は急いで出店に向かった。



目当てのものを買って、空いてるベンチに座る。

ヒョンの手には、たこやき。
ソースの香りが、空腹の僕のお腹を騒がせる。

そして、僕の手には焼きそば。
上に乗せた鰹節が、湯気でゆらゆらと揺れている。


・・・・・「ヒョン、お腹空いた」

「よし、頂きまーす」


ヒョンの言葉を合図に、
箸を必死で動かす。


「ほら、、、」

僕の手にした焼きそばの上に、ドン、、、と置かれる大きなたこやき。


・・・・・「サンキュ」

早速箸で掴み、大口を開けて一気に口に含んだ。


「こらっ! 熱いって!」

・・・・・「あつっ、、、、、、」

「バカだな、、、ほらっ、、」


ヒョンが手渡してくれたペットボトルのお茶を、
ゴクリと喉に通す。


・・・・・「はーーっ、、、死ぬかと思った。」

「ふふ、落ち着いて食べろ」

・・・・・「ヒョン、あとでかき氷も食べよう」

「はいはい」


ヒョンの返事に満足して、
僕は残りの焼きそばを頬張った。



お腹が少し満たされた僕たちは、並ぶ出店を楽しみながら、
境内を歩く。


「チャンミン、ほら、、、」


振り向くと、ヒョンが脚を止めて何かを見ていた。
後退りしてヒョンに並んで、視線を向ける。


・・・・・「金魚?」

「ん、、、やる? お前んち、確か玄関に水槽あっただろ?」

・・・・・「んー」


玄関にある水槽には、2年前だったか、妹が母さんに駄々をこねて買ってもらった金魚が二匹・・・
今ではすっかり、母さんが世話してるみたいだけど・・・


・・・・・「うん、やるっ」

「よしっ、一緒にやろう」


座り込んで、二人並んでポイを手に狙いを定めるけど、、、


・・・・・「あーっ、、、ダメだ、、、」


ちょっと大きめの黒い出目金。
思ったより元気がよくて、すぐにポイが破れてしまった。

悔しがる僕を横目に、ヒョンはじーっと金魚を吟味して、、、

「よし、、、」

慎重に狙いを定めた。

・・・・・「ヒョン、しっかりっ!」

「・・・・・」


息をのむように見つめて・・・・


「よしっ!! やった!!」


ヒョンは、僕が欲しかった黒の出目金より少し小ぶりの金魚を
カッコよく掬い取った。






・・・・・「さすがはヒョンだね」

「まぁな、、、」


ヒョンの手には、カッコいい黒の金魚が入った袋。
結局、ヒョンもその一匹だけだったけど、
大きめの袋の水の中で、一人優雅に泳いでる。
ヒラヒラと揺れる大きめのヒレが、とても綺麗だった。



「チャンミン、これさ、、、」


ヒョンが金魚の入った袋を差し出した、その時・・・





--- ユノっ!! ---



その声が耳に届いた瞬間、
ヒョンの瞳が大きくなった。


「ミファ!」


ヒョンの視線の先を、追うようにして振り向くと、、、

鮮やかな朝顔の柄の浴衣を着たミファさんと、、、


・・・・・「イェリン・・・」


笑顔のミファさんとは対照的に、
口を噤んで、寂しそうな顔をしたイェリンが、僕をじっと見つめていた。



「お前、来ないとか言ってたのに、、、」

--- うん。でも、イェリンが誘ってくれてね。気晴らしにと思って、、、---

「そっか。」

--- もしかしたら、ユノに会えるかもって・・・---

「浴衣、似合ってる」

--- そう? 良かった ---



ヒョンがとても嬉しそうだ。
やっぱり、ミファさんと一緒に来たかったんだね。

ごめんね、ヒョン・・・


--- チャンミンくん、久しぶりだね---

・・・・・「はい」

--- あっ、、、イェリンとも、、、---


3人の視線が、イェリンの方に向く。
僕と目が合うと、イェリンはさっと目を逸らす。


・・・・・「ヒョン、、、」

「ん?」

・・・・・「ミファさんと、、、」

「えっ?」

・・・・・「ミファさんと、かき氷食べてよ」

「は?」


僕は、そう言うとその場から脚を踏み出す。


「お、おい、チャンミン!!」


ヒョンの声を無視して、僕はイェリンに駆け寄ると、
彼女の腕を取り、歩き出した。








31へつづく


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私の心の中のお話です。
ご了承ください。



真夜中の観覧車。-scene2-.







時計は、もう午後4時を指している。
テーブルの上には、水滴を纏った大きめのグラスが2つ。

氷が溶け掛けているそのグラスを手に取り、残ったコーラを一気に飲み干した。


結局・・・
朝からヒョンは、机に向かったきり。

お昼ご飯の時ですら、片手にテキストを持って、
英文を目で追っていた。

僕はというと、そんなヒョンを横目で見ながら
溜息をつくばかり。

だって、そうだろ?


〝一日思いっきり遊ぼう〟

〝久し振りにチャンミンと出掛けたい〟



そう言ったのはヒョンなのに・・・
僕を期待させるだけ期待させて、酷い奴だ・・・

もう、こんな気持ちじゃ集中できない。

僕は、テキストを閉じてペンを置いた。
窓の外の空を見上げる。

ヒョンと一緒に居られるのも、もうすぐ終わりだ。
無意識のうちに、僕は大きなため息をついていた。

ふっと視線を戻すと、ペンを手にしたまま、ヒョンが僕をじっと見ている。


・・・・・「何?」


約束を破られた僕は、少し不機嫌にそう言うと、
ヒョンは、なぜかにっこりと笑った。


「何怒ってんだよ?」

・・・・・「別に。怒ってなんかないよ」

「で、終わったの?」


ヒョンの視線は、僕の目の前にあるテキスト。


・・・・・「まだだけど」

「あと、どのくらい?」

・・・・・「今日はもういい。また、明日にする」

「どうしてだよ? 早くやっちまえって。待っててやるから」


そう言いながら、僕のテキストに手を伸ばすと、
やりかけたページを探して開いた。


「ほら、はやく」

・・・・・「いいって、、、明日やるから」

「いいから、ほらっ、、、」


半ば強引にペンを持たされて、仕方なく僕は少しヒョンを睨みつつ、
また正座してテキストに向かう。


・・・・・「はぁっ、、、」

「終わったか?」

・・・・・「うん」

「どれ、、、」


僕が書き込んだ答えを、ヒョンがゆっくりと目で追ってゆく。


「ん、、、完璧。さすが、俺の弟」

・・・・・「だってそのテキスト、Bランクだから、、、」

「けど、Bランク完璧に理解してないと、Aランクには進めない」

・・・・・「そうだけど、、、」


ヒョンはそう言ってくれるけど、、、
僕の目に留まったのは、ヒョンのテキスト。

S の文字が、僕にはとても遠く感じる。


・・・・・「早くSランクに行きたい」


思わず本音が口を衝く。


「焦らなくていいよ。お前は俺よりもまだ時間があるんだからさ。確実にランクアップしていけば・・・」

・・・・・「・・・・・」

「俺との同居も夢じゃねぇって」


ヒョンは、そう言うと大きな声を出して笑った。


・・・・・「同居って、、、」


ヒョンの笑い声が、僕の心を温めてゆく。
いつの間にか僕は、ヒョンと一緒に笑っていた。




「さてと、、、もういい時間だな」


机の上を片付けながら、ヒョンが時計を見てそう呟く。


・・・・・「時間って? 何かあるの?」

「今日、出掛けるって言っただろ?」


同じように、片づけをしていた僕の手が止まる。


・・・・・「覚えてたの?」


ぽつりとそう言うと、
ヒョンは顔を起こして僕を見た。


「忘れるわけねぇだろ?」

・・・・・「でも、あと2時間もすれば陽が落ちる」

「陽が落ちなきゃ、意味がない」

・・・・・「どういうこと?」


ヒョンの言ってる意味が分からない。

すると・・・

ヒョンがすっと立ち上がり、壁に掛けてあるカレンダーを指さした。


「見てみろよ」

・・・・・「カレンダー、、、」

「そうじゃなくて、日にち。」


僕は、ヒョンに促され、立ち上がってカレンダーに近付く。


・・・・・「これって、、、」

「先週、雨で延期になったって知らなかったか?」

・・・・・「知らなかった」

「今年は、行くつもりなかったけど、お前がいるなら一緒にって、、、」

・・・・・「ヒョン」

「ほら、去年は一緒に行けなかっただろ?」



思わずカレンダーの今日の日付の部分に手を伸ばす。
指で触れると、特別な感情が、心にジワリと伝わってきた。

一週前の日付に大きな✖印が付いてある。
そして、今日の日付には、、、

〝チャンミンと夏祭り〟

赤いペンで、そう書いてあった。

気が付かなかった。
どうしよう、、、
嬉しくて泣きだしそう、、、

けど、、、

ふっと、頭に過ったのは、、、


・・・・・「ミファさん、、、」

「えっ?」

・・・・・「ミファさんは? 誘わなくていいの?」



『夏祭りに誰と行くか、、、』



去年、それはとても重要なことだと、キュヒョンが言ってた。
ヒョンにはミファさんという彼女がいる。
なのに、僕と一緒って、、、


「いいんだよ」

・・・・・「でも・・・」

「俺はチャンミンと行きたいんだ。だから、ミファの事は気にしなくていい」


そう言われても、なんだか僕の心に引っかかる・・・
素直に喜べない自分がいた。


カレンダーを見つめたまま、考える。

〝お前と行きたい〟

嬉しいのに、、、
すごくすごく嬉しいのに、、、


「チャンミン、、、」


ヒョンに呼ばれて、振り向く。


「正直言うと、ミファに誘われた。けど、今年は行くつもりなかったしさ、、、」

・・・・・「・・・・・」

「けど、お前となら、、、その、、、」

・・・・・「・・・・・」

「とにかく、ミファにはちゃんと、お前と行くって伝えてる」

・・・・・「ケンカ、、、しなかったの?」

「そんなことでケンカなんかしないって」

・・・・・「泣かしたりしてない?」


とにかく、僕はミファさんが気になって・・・
そんな僕を見て、ヒョンは目じりを下げてふっと笑った。


「お前、優しいんだな」

・・・・・「そんなこと、、、ないよ、、、」


髪をクシャと撫でられる。


「よし、チャンミン行こう」

・・・・・「うん」



僕は、家から持ってきていた大きめの鞄に荷物を詰めた。


・・・・・「ヒョン! 僕、戻って着替えてくる!」

「よし、10分後に、表で」

・・・・・「了解っ!」


楽しもう、、、
せっかくヒョンが、僕にくれた2人の時間。


・・・・・「よしっ」


気持ちを切り替えて、僕は急いでヒョンの家の階段を駆け下りた。








30へつづく


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私の心の中のお話です。
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真夜中の観覧車。-scene2-.






次の朝・・・

瞼の向こう側から眩しい光を感じて目を覚ますと、
カーテンを勢いよく開けて、
窓の外を確認しているヒョンの姿が、目に映る。


「よしっ、、今日は晴れた。」

・・・・・「ヒョン?」


声が掠れてる。
瞼も重いな・・・


「おっ、起きたか?」

・・・・・「うん」


返事をしながら、身体を起こそうとすると、
視線を感じて顔を上げる。


・・・・・「なに? どうしたの?」


ヒョンが少し驚いた顏をして、僕を見ていた。


「お前、、、ちょっ、そのまま待ってろ」


そう言うと、急いで部屋を出ていく。

どうしたんだろう?

ベッドに半身を起こし、窓の方を向くと、
青い空にポッカリ浮かぶ大きな白い雲が見えた。


・・・・・「いい天気だな」


今日は、ヒョンと出掛ける約束の日。
昨日の夜は、喧嘩してしまったけど、でも・・・


〝とにかくお前は、俺だけの弟でいればいいんだよっ!!〟


・・・・・「ふふふ、、、」


ヒョンのあの言葉を思い出して、
僕はまた、声を漏らす。


「何笑ってんの?お前、、、気持ち悪い」


顏を上げると、いつの間にか戻っていたヒョンが、怪しげに目を細めて僕を凝視していた。
手にはなぜか、濡れタオル・・・


・・・・・「べっ、別に、、、何でもないよ」


思い出し笑いだなんて知られたら、
きっと笑われる。


「ふぅ、、、」


白々しく視線を逸らす僕を見て、小さなため息を零たヒョンは、
手に持った濡れタオルを広げながら、ゆっくりとベッドに座った。


「寝ろよ」

・・・・・「えっ?」

「ベッドに横になれって」

・・・・・「どうして?」

「いいから、ほらっ」


強引に腕を取られ、仕方なく僕はもう一度ベッドに横たわる。
すると、ヒョンは手にしていたタオルをきっちりと角を揃えてたたみ、僕の目の上にそっと置いた。


・・・・・「ヒョン、、、何?」

「腫れてる」

・・・・・「えっ?」

「昨日、酷く泣いたから、、、目が腫れてる。暫くこうしてろ? 」

・・・・・「、、、うん、、、」


そう言えば、なんだか視界がいつもより狭く感じた。
瞼が腫れてたのか、、、
どうりで重く感じたはずだ。

確かに、昨日の夜は酷く泣いたと自分でもそう思う。
それにそのまま寝ちゃったから、、、

僕の顏、酷かっただろうな、、、
そんな顔、ヒョンに見られたくなかったな、、、

冷えたタオルの冷たさが、ジワリと瞼に染みていく。


ベッドのスプリングが小さく弾んで、
ヒョンがベッドから立ち上がったことを感じる。


「チャンミン、朝ごはん作ってくるから、そのままでいろよ?」

・・・・・「ヒョン、ご飯なら僕が、、、」

「いいから、、、冷蔵庫に母さんが作り置きしてくれてるおかずがあるから、、、、」

・・・・・「大丈夫?」

「ああ、、、出来たら呼びに来るから、そのまま横になってるんだぞ? いいな?」

・・・・・「うん」


扉が開く音・・・


・・・・・「ヒョン、、、」

「ん?」

・・・・・「昨日さ、、、」

「・・・・・」

・・・・・「ゴメン、、、ね」


よくわからないけど、ヒョンに謝りたかった。
〝ごめん〟って、そう言いたかった。


「お前が謝ることはない」

・・・・・「でも、、、」

「いいから、じっとしてろ」

・・・・・「うん」


パタン、、、と、扉が閉まる音が聞えると、
すぐにヒョンが階段を駆け下りる音が耳に届いた。


ヒョンはやっぱり優しい。
だからどんなに諦めようと思っても、無理なんだよ。

僕の気持ちは、こんな風に上がったり下がったりでグルグルするけれど、
結局最後は、やっぱりヒョンが好き って結論に辿りついてしまう。

何年もそうやって迷いながらも、
今も変わらずヒョンの事がこんなに好きなんだから、
僕って結構一途なんだよな・・・


そんなことをウダウダと考えていると、
階段を駆け上がってくる音・・・

そして、部屋の前でピタリと足音が止まる。
僕が寝ていると思っているのが、静かにゆっくりと開く扉。


「チャンミン?」

・・・・・「ヒョン?」


返事をすると、扉が閉まる音と同時に
ベッドのスプリングが沈む。

そして、タオルの重みが徐々になくなり、瞼の向こうの眩しさが目を刺激した。


「どう? ゆっくり開けて?」


ヒョンに言われた通り、僕はゆっくりと瞼を開いた。


・・・・・「もう大丈夫だよ」

「けど、まだ少し腫れてる」

・・・・・「顏、ヘン?」


だって今日は、ヒョンとデートなんだ。
腫れた瞼で、ヒョンと一緒に歩きたくない。


「大丈夫、お前はいつも可愛いさ」


大きな掌が、僕の髪をくしゃくしゃに撫でる。


・・・・・「可愛いとか、、、/////、、僕は男だし、、、」

「ほら、飯食おう。腹減っただろ?」

・・・・・「、、、うん、、、」

「行くぞ」


差し出される手に、少し戸惑いながら、
僕はヒョンの手を取る。

繋いだヒョンの手は、大きくて温かかった。






・・・・・「御馳走さまでした」


ヒョンのおばさんは、とても料理が上手だ。


「腹いっぱいになったか?」

・・・・・「うん。おばさんの手料理は最高」

「手料理ったって、作り置きだし」

・・・・・「真の料理上手っていうのは、こういう普通の何でもないおかずが美味しいかどうかなんだ」

「ふーーーん」

・・・・・「ミファさんは?」

「えっ?」

・・・・・「ミファさんは、お料理上手なの?」

「ミファ?」

・・・・・「うん」

「うん、、、まぁ、、、」


何を思い出してんだか、急にニヤつくヒョン。


・・・・・「ニヤニヤすんなよ。またヤらしいこと考えてんだろ?」

「お前、、、またそれ、、、ってか、ヤらしいことって何だよ?」


明らかに動揺してるところがムカつくんだよ・・・


・・・・・「ヤらしいことっていうのは、ヤらしいことだよ」

「は? 言っとくけど、俺とあいつは清廉潔白、純真無垢」

・・・・・「うそ、、、、」

「嘘じゃねぇよ、、、」

・・・・・「目が泳いでる。」

「泳いでねぇよっ」


ヒョンてば、柄にもなく顔を赤くして・・・
けど、揶揄うのはここまでにしておこう。

じゃないと、聞きたくないことまで聞く羽目になりそう、、、


・・・・・「ま、どうでもいいけどね、、、」


僕は、シラケたふりしてそう言うと、立ちあがり、食器を手にしてキッチンに向かった。


・・・・・「ヒョン、食べ終わったなら運んでよ。洗っちゃうから、、、」


「お、おう、、、」


自分からミファさんの名前を出したくせに、
なんだか落ち込んでしまう。

スポンジにつけた洗剤が、
柔らかい白い泡になっていく様をじっと見つめながら、
聞かなきゃよかったと後悔してしまう。


今日はヒョンとデートなんだ。
2泊3日の最終日。

気持ちを切り替えて、ヒョンと2人でいっぱい楽しもう、、、


そう思っていたのに・・・・・





・・・・・「ヒョン?」

「ん?」


洗い物を終えてヒョンの部屋に戻ると、
真剣な顔をしたヒョンが、机の上に広げたテキストとにらめっこしていた。


・・・・・「ヒョン、、、今日は出掛けるんじゃなかったの?」

「ん、、、いいから、お前も残りの課題、やっちまえよ」

・・・・・「ん、、、」


その後も、ヒョンは何も話さず、ただ机の上のテキストにびっしりと並ぶ数式に集中してる。


僕は、何も言えずに向かい側に座って、ヒョンに気づかれないように小さなため息を漏らす。
仕方なく英語のテキストを開くけれど、目に映る英文なんて、一向に頭に入らない。

ペンを止めて、ちらりとヒョンを盗み見るけれど、
ヒョンは僕の視線にはちっとも反応せず、
ただひたすらカリカリとペンを走らせていた・・・・・







29へつづく


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私の心の中のお話です。
ご了承ください。



真夜中の観覧車。-scene2-.






ヒョンは、何度か小さな声で僕に謝って、
それでも僕が泣き止まなくて、、、

正直、僕はこの頃にはどうして自分がこんなにも泣いているのか、分らなくなっていた。
ただ、涙は止まらない。
そして、胸が痛いほどの〝悲しい〟感情に支配されていたんだ。

それから暫くは、ヒョンは何も言わずに僕の髪を撫で続けてる。

僕の気持ちが少し落ちついてきて、泣き声が止んだ頃、
ヒョンの手が、すっと引いていく。


小さく肩を揺らす僕と、それをじっと見つめているであろうヒョンの息遣いが、
静かすぎる部屋で重なりあう。


「よく、、、分らないけど、、、」

・・・・・「・・・・・」

「その、、、あいつはあまり好きじゃない。」


ヒョンの言う、〝あいつ〟って、きっとユンス先生の事。
けど、どうしてヒョンがユンス先生のことをそんな風に悪く言うのか、僕には全く分らなかった。


「なのにお前が、嬉しそうに笑ってるのを見て、イラついた。」

・・・・・「・・・・・」


僕は黙ってた。
ヒョンは、それでも話を続ける。


「ゴメン、、、でも、、、」

「お前も、、、悪い」


どうして?
どうして僕が悪いの?

イラッと来るのは僕の方だ。
だっておかしいだろ?

それまで黙っていた僕は、カーッと頭に血が上って、
被っていたケットをガバッと外し、身体を起こしてヒョンを睨みつけた。


・・・・・「意味もなく僕を怒鳴りつけておいて、
お前が悪いとか、、、どういう意味?」

「・・・・・」


僕は、ヒョンを睨みつけたまま目を離さない。
そしてヒョンも、そんな僕をじっと見つめてる。


・・・・・「何とか言えよ、ヒョン!」

「・・・・・」

・・・・・「先生はおかしくなんてない。おかしいのはヒョンの方だろ?」


薄暗い部屋のベッドの上で、
僕はヒョンに感情をぶつける。

ヒョンの事は好きだけど、大好きだけど、
けど、先生のことを悪く言うヒョンは嫌い。
僕に向かって、声を荒げるヒョンも嫌いだ。


「意味もなく怒鳴ったんじゃない」

・・・・・「じゃあ、どんな意味があるの?」

「・・・・・」

・・・・・「言えよっ」

「分んねぇよっ!!」


ヒョンがまた、大きな声を出す。
驚きで、僕の身体がビクッと震えた。


「分んねぇけど、、、」

・・・・・「・・・・・」

「分んねぇけど、とにかく・・・」

・・・・・「・・・・・」

「とにかくお前は、俺の、、、俺だけの弟でいればいいんだよっ!!」

・・・・・「なっ、、、何言って、、、」

「うるさいっ もう寝るっ!」



ベッドから逃げるように立ち上がると、そのままベッド下の布団に転がり、
ついきっきの僕のように、背中を向け、ケットを頭まですっぽりと被る。


・・・・・「そ、そんなの、、、答えになって、、、ないだろ、、、」

「・・・・・」


僕はベッドの上に一人きりで、、、
頭の中は、さっきのヒョンの言葉が、何度も何度も往復してる。

俺だけの、、、弟・・・
俺だけの、、、
俺だけ、、、

それってさ、、、もしかして、、、

いわゆる、〝ヤキモチ〟 って・・・やつ?


ヒョンが?
ユンス先生に?


・・・・・「ふふっ、、、ふふふふふふ、、、、」


さっきまで、心の中は泣いて怒って・・・
なのに、今度は笑いが止まらない。

勿論、ヒョンの気持ちに僕と同じ〝特別〟が無いってことは分かってる。
あくまでも弟として、、、それは分かってる。

けど、それでも僕はすごく嬉しくて・・・



僕は、ベッドにゴロリと横になり、天井を見つめる。
笑っちゃダメなのに、けど笑っちゃう。


もう、、、いいや。


さっきまでの悲しみと怒りは、何だったのか。
自分でもそう思うけど、けど、、、

もういい。


・・・・・「ヒョン、、、」

「・・・・・」

・・・・・「心配しなくったって、僕はいつまでもヒョンの弟でいるからさ、、、」

「うるさい、早く寝ろ・・・」

・・・・・「ヒョン、、、」

「・・・・・」

・・・・・「おやすみなさい」

「ん、、、おやすみ」



泣いて怒って笑って・・・
忙しく過ごした二日目の夜。

今夜もヒョンの匂いに包まれながら、
僕は幸せな気持ちで夢の中に落ちていった・・・・・







28へつづく


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